初めてのおもてなし
私が初めて、先生の稽古場以外でお茶のおもてなしをしたのは、
随分と昔のことで20代前半の頃かと記憶しています。
祖母の法事で、私がお茶を点てて、親戚の叔父さんや叔母さんにお茶のおもてなしをしてほしいと母からの依頼があったのです。
私「家は、茶室はないし、整った茶道具もないよ~、どうやってお茶を点てるの?」
母「ポットのお湯でいいじゃない。お茶碗もあっちこっちから集めてきたら数は揃うだろうし、洗って使えばいいじゃない」
私は、お茶は整った環境で点てもてなすものだと思いこんでいたことを気付かされ、母の言葉に電気が走った瞬間でした。
法事の当日は、ダイニングテーブルにポットの蓋を開け、そこに柄杓を入れて湯を汲みお茶を点てました。
長い法事が終わり、足をかばいながらダイニングテーブルに近づいて来る高齢の叔父さんに「お抹茶を飲みますか」と尋ねると、
「うれしいね~」と返事をもらい点ててみました。お稽古では先生が手直しをしてくださいますが、ここでは自分の判断で、不安ではありましたが、「どうぞ」と言って叔父さんの前に出しました。
すると叔父さんは「おいしいな~。比登美のお茶が飲めたから、叔父さんもそろそろ姉さんの方に行っても後悔ないな~、なぁ姉さん」と、お仏壇の方を向いて祖母に声をかけていました。
すると「なんや~、いいの飲んでるやないか~」と、足を撫でながら高齢の叔父さん、叔母さんが続々ダイニングテーブルに集まってきました。
母は台所で茶碗を清め、あるものを生かし、いやそれしか手立てがなかったのですが、母と二人三脚のおもてなしをして、人生で数回しか会ったことのない親戚とのやり取りに温かい時間を過ごしました。特別な会話があるわけではないけれど、一碗のお茶が何か大切なものを取り次いでくれているように思えましたね。
茶室を飛び出した私のお茶のおもてなしは、このように始まりました。
皆さんも大切な方へお茶を点ててみませんか。
令和五年 和暦文月満月